電磁波・化学物質・低周波音について各党に質問(2022年)

2022年6月、各政党に電磁波、化学物質、低周波音についてどのような政策を考えているか、公開質問をしました。公開質問状全文と各党からの回答をお知らせします。日本維新の会、立憲民主党、社会民主党からの回答はありませんでした。                  2022.6.14.

 

公開質問状

 

私たちは、電磁波や化学物質、低周波音など環境因子に敏感な環境過敏症の患者会です。参院選に向け、環境因子に関する考えや政策案を伺いたく、公開質問状をお送りします。

610日までにご回答を頂けますと幸いです。質問と回答は当会ホームページ(https://www.ehs-mcs-jp.com)等で公開します。

 

1)電磁波対策について伺います。

欧州連合(EU)、欧州議会の下部機関で最新技術のリスク評価と政策提案を行う「欧州議会科学技術評価委員会(STOA)」の報告書「5Gの健康影響」では、携帯電話で使われるマイクロ波電磁波を「おそらく発がん性の可能性がある」と認め、マイクロ波には生殖影響や胚、胎児、新生児の発達に影響があると評価しました[1]。ミリ波については、リスク評価できるだけの科学的知見がないと評価しました。欧州では今後35年はミリ波基地局が導入されないので、その間に影響を調査するよう政策提案をしました。さらに、子どもや高齢者、電磁波過敏症など電磁波の影響を受けやすい人が集まる場所は、タバコ対策で禁煙区域を設けたように、「無線周波数電磁波の禁止区域」を設定すること、学校や職場、住宅に有線回線を設置すること、現在の被曝指針の見直しも提案しています。

日本の電波防護指針は米連邦通信委員会(FCC)が定めたものと同じですが、かつて日米と同じ規制値を採用していたカナダは2015年に指針値を改定し、規制を厳しくしています。アメリカ会計検査院(GAO)はFCCに対し、最新の研究を反映して電磁波被曝指針を見直すように求めました[2]。しかし、FCCはこれを拒否したので、消費者団体などが行政手続法違反だと提訴しました。ワシントン特別区控訴裁判所は、この訴えを認め、FCCの判断は恣意的で行政手続法に違反していると判決しました[3]。

また、カリフォルニア州の教師は学校無線LANの電磁波で電磁波過敏症になり、教室に電磁波対策を行うことなどを求めたのに拒否され、障害者差別だと提訴しました。カリフォルニア州控訴裁判所は、教師の訴えを認めました。判決文では「アメリカ合衆国で『Wi-Fiは病気になる可能性がある』という主張を認めた最初の判決であることは明らかなようだ」と記されています[4]。

日本ではミリ波基地局を含めて5G基地局の設置が進み、基地局周辺では体調不良を訴える人も増えています。学校無線LANの影響で体調不良を訴える子どもや教師がおり、無線LANを有線LANに切り替えた学校もあります。

これらの状況を踏まえ、国民の健康や環境を電磁波から守るために、どのような対策が必要だと考えておられますか?日本の現在の指針値を、利益相反のない中立的な組織によって、最新の研究を踏まえて新たに策定する必要性について、どう考えておられますか?日本ではミリ波基地局の設置も進んでいますが、住宅地や学校、病院周辺で、ミリ波基地局を含む携帯電話基地局の設置を規制する必要があると考えておられますか?

 

2)化学物質対策について伺います。

合成洗剤や柔軟剤などに含まれる香料で、頭痛やめまい、腹痛、吐き気など多様な症状を訴える人がおり、「香害」とも呼ばれています。アメリカ、ワシントン大学のアン・ステインマン博士らは、衣類用合成洗剤、柔軟剤、シャンプーなど25製品から133種類の香料成分を検出し、中には発がん性があるものも使われていました[5]。

アメリカ労働省障害者雇用政策局(ODEP)の下部機関、職業調整ネットワーク(JAN)は、報告書「香料過敏症の従業員」を発表し、皮膚のアレルギーや呼吸器系の症状が起きることを認め、香料を職場から排除し、良好な空気質を保つことなどを求めています[6]。

日本にも、化学物質過敏症を発症し、他の児童の衣類について柔軟剤などで体調を崩し、別室授業を余儀なくされ、教育を受ける権利を侵害されている子どもたちがいます。職場や学校の化学物質対策や香料の規制について、どのような対策が必要だと考えておられますか?

 

3)低周波音について伺います。

国内外の疫学調査では、風力発電所から2kmまたは2.5km以内では、睡眠障害などの健康問題を訴える率が有意に高いことが報告されてきました[7-8]。しかし、日本では、陸上風車は住宅から1km以内の場所にも設置されています。また、洋上風車は沿岸部・港湾部に設置されるため、地域住民への健康影響が懸念されています。

政府は2040年までに洋上風力発電を30004500kW導入する方針を掲げています。風力発電の設置を推進するために、2021年には、風力発電所の第一種事業(必ず環境アセスメントを行わなければいけない)の規模を「1kw以上」から「5kw以上」に変更しました。

環境アセスメントでは、住民も意見を述べる機会が設けられていますが、実際には、事業者が発表した環境影響評価図書をダウンロードすることも印刷することもできず、情報公開が不十分です。各地で反対運動や裁判が起きていますが、第一種事業の要件を緩和することは、さらに紛争を増やす可能性があります。

またアメリカ内務省海洋エネルギー管理局(BOEM)は、洋上風車の海中送電ケーブルから磁場が漏洩し、1m離れた場所で地場強度が1040mGあると報告しました[9]

サケ、ウナギ、スズキ、ヒラメ、エビ、カニなどは電磁場に敏感だと報告されていますが、洋上風車を導入する前に、ケーブルからの漏洩磁場による海洋生物への影響を十分に調査するべきではないでしょうか。風力発電に伴う低周波音や電磁場、健康、環境影響を防ぐために、どのような対策が必要だと考えておられますか?

文献

[1]STOA, European Parliament. ”Health impact of 5G”(2021)

[2]US Government Accountability Office. ”Report on Congressional Requests Telecommunications: Exposure and testing requirements for mobile phones should be reassessed”(2012)

[3]United States Court of Appeals for the District of Columbia Circuit.No.20-1025,Decided August 13,2021

[4] Court of Appeals of California, No.B294240. BROWN v. LOS ANGELES UNIFIED SCHOOL DISTRICT. (2021)

[5]A Steinemann. et al., Environmental Impact Assessment Review.(2010)31(3):328-333 

[6]Job Accommodation Network. “Employees with fragrance sensitivity”(2013)

[7]石竹達也「風力発電による低周波音・騒音の長期健康影響に関する疫学研究 平成二十七年度環境研究総合推進費終了成果報告書(5-1307)

[8]山田大邦「石狩既設風車の低周波音・超低周波音測定と健康被害」日本の科学者(2017524550

[9] BOEM. ”Evaluation of potential emf effects on fish species commercial or recreational fishing importance in Southern New England”(2019) 

 

 各政党からの回答(到着順に掲載)

日本共産党からの回答

1電磁波対策について

国際がん研究機関(IARC)が、高周波電磁波を「グループ2B」(発がん性があるかもしれない)に分類したことに続き、欧州議会科学技術選択評価委員会(STOA)が5G、電磁波を「おそらく発がん性がある」と指摘したことはきわめて重要です。

予防的考え方に基づいて、現状の電磁波指針値の見直しが必要です。

その際、日弁連が提言したように、電力や電波を利用する側の企業を所管する総務省や経済産業省から独立した組織を設置し、中立・公平な立場から安全規制を行うべきです。

電磁波の影響をより強く受ける、子どもや高齢者、電磁波過敏症の人々に配慮するため、住宅地や学校、病院周辺では、ミリ波を含む携帯電話基地局の設置を規制する必要があります。住宅地への設置は住民への説明と合意をルール化する必要があります。

 

2)化学物質対策について

対策が遅れている化学物質の有害性にかんする研究と規制を促進します。

日本での研究結果がまとめられる前でも、米国などの先進的研究に学び、原因物質を含む合成洗剤、柔軟剤、シャンプー等について注意喚起するとともに、製品への使用禁止・規制などの対策を講じる必要があります。

あわせて化学物質過敏症や「香害」当事者の原因物質やさまざまな症状、それに伴う生活上の困難、対策の必要性について、社会的な理解が広がるよう周知啓発をすすめます。

児童のアレルギー疾患については、保護者と学校、主治医などが理解を共有するために「学校生活管理指導表」が活用されています。文部科学省自身が、アトピー性皮膚炎などと化学物質過敏症の関係を認めており、この指導表に、化学物質も含めて活用すべきです。

当事者が学校や職場で、良好な環境の下で教育を受ける権利が保障され、安心して働き続けられよう、対策を促進します。

 

3)低周波音について

環境規制の弱い日本では、きちんとしたルールや規制が未整備であるために、利益追求を優先した乱開発や住民の健康・安全にかかわる問題を引き起こしています。これは、再生可能エネルギーの普及、活用の障害にもなっています。

風力発電所の規模要件を緩和してアセスメント対象外にしたり、事業者が提出した環境影響評価書を印刷、ダウンロードさせないなどということはあってはなりません。

再生可能エネルギー事業の環境アセスメント手続きを強化し、大型化に合わせた評価基準の整備、近接する施設を含めた複合的な影響評価を実施すべきです。

事業の立案、計画の段階から情報を公開して、事業者、自治体、地域住民、自然保護関係者、専門家など広く利害関係者を交えて、事業に取り組む必要があります。洋上風力の海洋生物への影響評価も、十分に行う必要があります。

 

国民民主党の回答

1)電磁波について

国は、電波の強さの基準値は一般環境下では 50 倍の安全率をとったものを定めていると 説明しています。また、電波法の規制により、頭の近くで使う携帯電話端末などは、あらか じめ、電波防護指針の基準(局所吸収指針)を守っていることを確認してからでないと販売 できないようになっています。携帯電話基地局については、IARC での発がん性評価で は、基地局や放送局からの電波についての発がん性の証拠は不十分であるとしています。一 方で被害を訴える方々がいることも現実であることを踏まえ、今後予定されているWHO 本部による電波健康リスクの総合的評価を注視しつつ、私たちの考え方も整理していきます。

2)化学物質について

 縦割り行政を排し、人の生命・健康と環境を守る観点に立った総合的な化学物質対策を進 めることが必要です。したがって、化学物質の製造から廃棄までの全体を、予防的取り組み 方法に基づいて包括的に管理するための総合的な法制度の構築に向けて検討を進めます。 また、建築物に由来する化学物質被害を防止し、シックハウス被害者がこれ以上増加するこ とを防ぐため、建築物完成後の居室内の有害化学物質濃度測定を義務化し、基準を超えた場合には改善を求めます。さらに、大規模な公共建築物における有害化学物質の定期的な測定 を義務付ける等を内容とするシックハウス対策のための法制度の検討を進めます。

3)低周波音について

 エネルギー関連設備の導入・廃棄に際しては周辺環境との調和や適性な事業規律の確保等に取り組みます。

 

公明党の回答

1)   電磁波対策について

これまでも国内に限らず、海外における科学的知見に基づき、電波やミリ波が人体に及ぼす影響を調査・研究をしております。

電波防護指針で定められている、電波の安全基準値以内であれば、安全性は確保されるものと承知しております。

なお、最新の科学的知見や国際機関の議論の動向などを踏まえながら、安全基準値の更新を行うことが重要です。

引き続き、国民の利便性向上につなげるとともに、人体に対する安全性が確保されるよう努めます。

 

2)化学物質対策について

柔軟剤等の香りにより、症状を訴えている方が一定数いらっしゃることは事実です。その方々の健康を保証していくためには、国民一人一人の意識を変えていくことが重要であり、それは国の社会的役割であると認識しています。まずは国が率先して、実際に香りで苦しんでいる方がいらっしゃる現状について、普及啓発に努めていくことが重要と考えます。

また、教育を受ける権利は等しく守られるべきであり、学校教育においては、一人一人の児童の状況に応じて教育機会が提供されるべきと考えます。

 

3)低周波音について

 平成29年の環境省の「風力発電施設から発生する騒音に関する指針について」によれば、「風力発電施設から発生する超低周波音・低周波音と健康影響については、明らかな関連を示す知見は確認できない」としていますが、引き続き風力発電の健康、環境に対する影響について、知見の集積を図っていきます。

 

自由民主党の回答

1)電磁波対策について

送電線などの電設備や、携帯電話基地局などの無線設備、携帯電話などの無線機器については、それぞれの周波数に対するICNIRPガイドラインの指針値と同等の規制がなされています。

また、政府は、電磁界関係省庁連絡会議を開催し、それぞれの省庁が有する知見等の共有を行っており、特に環境省においては、専門家の監修のもと、電磁界に関する基礎的な知識や健康影響についての国際的な見解やわが国の取組みなどを、平成30年年4月に「身のまわりの電磁界について」と題する文書に取りまとめるなど、問題意識を持ちつつ対応しているものと承知しております。

 

2)化学物質対策について

香りの強さの感じ方には個人差があることから、一般的に、香りの強い製品を使用される方は周囲の方への配慮が必要と考えられます。

政府においては、関係省庁連絡会議を開催し、香害についての情報共有を行うとともに、連携した周知・啓発等に取り組んでいるものと承知しております。

 

3)低周波音について

本年4月から、地球温暖化対策推進法に基づき、地域との合意形成を図りながら、環境に配慮し地域に貢献する再エネ事業を促進するための仕組みが導入されました。

今後、関係省庁間で有識者検討会を設置し、更なる再エネ導入の適正化を図るための政策的検討を開始しており、夏頃を目処に一定の取りまとめが行われる見込みです。

なお、環境省では、風力発電施設の風車騒音の人への健康影響について、国内外の研究を整理した結果として、人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられるとの有識者検討会報告をとりまとめた上で、「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」を公表しています。また、風力発電施設からの騒音等に関する文献についても整理を行いましたが、低周波音と健康影響の明らかな関連を示す知見は得られていません。

海底送電ケーブルから発生する電磁波(電磁場)からの海生生物への影響に関する知見は限られていることから、引き続き情報収集に努めてまいりたいと思います。

 

れいわ新選組からの回答

電磁波による健康被害については、人による個人差があり、人によっては全く影響がない方もいれば、体の不調を感じておられる方がいるということは把握しております。

同時に、現代社会において無線LAN、G、6Gなどの通信技術は、誰もが利用する、なくてはならない物となっており、そのデジタル化を一律に規制することは、その利便性について否定することにもつながる側面があり、難しいと考えています。

一方で、電磁波による健康被害についてはその実態調査について、網羅的に行われているかといえば、その点では不十分な面はあると考えます。その意味で、大人や子どもの健康に与える影響について、国の責任による実態調査をまず行うことを提案します。

同様に化学物質過敏症の一種である「香害」についても、私たちは網羅的な実態調査をおこなうべきと考えています。

電磁波過敏症については、その影響の実態を会社、職場などの幅広い場所で国の主導で調査を行い、被害を訴える人の数や割合などを調査した上で、予防原則にのっとって、ばく露の指針値についても見直していくとともに、今後の社会におけるデジタル化を推進する際に、調査結果を各国の研究団体と共有したうえで、被害が出にくい電波活用のために役立てる必要があると思います。低周波音についても同様と考えます。

重要なのは「誰ひとり取り残さないデジタル化」ということであり、デジタル化が社会の趨勢にある中で、それはデジタル技術の活用を習得する能力だけではなく、中立的な機関の調査結果をも踏まえたうえで、電磁波による健康被害を訴える人がいるということも社会に周知し、共に考えていくことを意味します。そのうえで、それぞれの現場において、合理的配慮の視点で対策を考えていくことが必要であると考えます。

 


公開質問状と各党からの回答(2019年)

 参院選に際し、化学物質、電磁波、低周波音の規制や対策について、2019年6月、各政党に公開質問状と参考文献を添えて送り、見解を尋ねました。公開質問状を送ったのは自民党、公明党、共産党、立憲民主党、社民党、れいわ新選組、国民民主です。 

 このうち、回答があったのは自民党、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組です。そのほかの政党からは回答がありませんでした。

 公開質問状全文と各党からの回答をご紹介します。

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            公開質問状へのご協力のお願い

私たちは化学物質や電磁波、低周波音などの環境因子によって体調を崩す環境過敏症の患者会です。健康な人にとっては何でもない、ごくわずかな環境因子によって、頭痛やめまい、吐き気、集中困難、動悸、睡眠障害などが発生しますが、専門医が少なく、社会的認知も十分ではありません。そのため「気のせい」や「わがまま」と誤解されて周囲の理解を得られず、適切な治療を受けられない人が全国にいます1

しかし、日本の化学物質過敏症の有病率は約8%、電磁波過敏症有病率は約6%2と推計されており、第5世代移動通信システム(5G)の開始や柔軟剤の香料、風力発電施設の大規模化などによって環境因子は増え続け、さらなる発症者の増加が懸念されています。

欧州評議会(CoE)議員会議は、スウェーデンのように電磁波過敏症を障害として認めることや若者の電磁波被曝を減らすことを勧告し3、アメリカ国立建築科学研究所(NIBS)は、電磁波過敏症や化学物質過敏症でも建物を利用できるようガイドラインを策定しました4。また、オーストリア医師会5やヨーロッパ環境医学アカデミー6は、電磁波に関する健康問題に対応する医療関係者のために診断・治療ガイドラインを発表しています。

5Gによって電磁波被曝量が劇的に増加するため、海外では5G導入の一時停止を決めたり、設置場所を規制する条例を設けた自治体もあります。しかし、日本では5Gのリスクは知られておらず、電磁波過敏症の診断基準もないまま、導入が進もうとしています。

参院選にあたり、これらの環境因子に関する貴党のお考えを伺い、ご回答をホームページや会報で紹介したいと考えております。

お忙しいところ大変恐れ入りますが、74日までにご回答をいただけましたら幸いです。よろしくお願いします。

 

              お尋ねしたい点

1)香料の95%は石油系化学物質で、5%は植物などから抽出されていますが、欧州連合(EU)の調査で、自然由来のものであっても皮膚アレルギーを起こすことがわかり、EUでは今夏から3種類の香料(天然系2種、石油系1種)が禁止になります7。香料による健康被害を防ぐには、日本でも健康影響を調査し、その結果を公表するほか、有害な物質を規制する必要があるのではないでしょうか。香料規制に関する貴党の方針をお聞かせください。

 

2)国連勧告「化学品の分類および表示に関する世界調和システムGHS」では、化学物質の有害性を世界共通の基準で分類・表記し、どのようなリスクがあるのかを商品のラベルや安全データシート等に反映し、消費者、労働者、輸送担当者、緊急対応職員に知らせることを目的としています8)EUでは全ての化学物質をGHS表示の対象とし、消費者も製品ラベルに表示されたリスク情報を知ることができます。しかし、日本ではラベル表示が義務付けられた104物質とSDS表示が義務付けられた640物質に限定され、しかも表示対象は労働環境のみで、一般消費者向けの商品にはGHSが反映されません9。国連勧告の本来の主旨に基づけば、日本の消費者にも全物質の情報を開示するようにするべきではないでしょうか。GHS表示と化学物質の情報公開に関する貴党のお考えをお聞かせください。

 

3)学校では無線LAN導入が進み電磁場被曝量が増え、衣類についた柔軟剤の香料により化学物質の暴露も増加しています。化学物質過敏症や電磁波過敏症の子どもたちはこれらの環境因子が原因で教室に入れず、別教室での自習を余儀なくされています。特別支援教室の解説を依頼しても2年以上待たされたケースもあります10)。高校や大学進学などで、通信制の学校を選択する子もいますが、入学試験で教室に入ることやスクーリングを受けることが困難な場合もあります。文科省はどんな障害があっても共に学ぶ「インクルーシブ教育」を目指していますが、これを実現するためにも、電磁波や化学物質の削減が必要です。学校環境における環境因子の削減対策や、環境改善に関するお考えをお聞かせください。

 

4)5世代移動通信システム(5G)では、今まで使われてこなかった非常に高い周波数帯の電波(28ギガヘルツ)が使われますが、このように高い帯域(ミリ波)は、安全性がまだ確認されていません。また、周波数が高くなると波長が短くなるため、100mごとに基地局(スモールセル・アンテナ)を設置することになります。ベルギーのブリュッセル首都圏地域11)、スイスのジュネーヴ州12)、イタリアやアメリカの自治体では、5G導入の一時停止を決定したり、条例でスモールセル・アンテナの設置を規制しています。このままでは電磁波過敏症患者は道を歩くことも難しくなります。5G導入に関して貴党の見解をお聞かせください。

 

5)風力発電施設やエコキュートの増加により、低周波音の健康被害も増えています。 鹿児島県長島町では、風車から1.5km以内の住民は、2km以上離れた住民に比べて睡眠障害を訴える率が2.06倍高く、風車騒音が聞こえる住民は聞こえない人より睡眠障害が2.15倍高くなりました13。北海道石狩湾周辺では定格出力4,000kW級の風車を洋上に26基地設置する計画もありますが、その低周波音で圧迫感・振動感が札幌市を含む約2000人に発生すると推測されています14。 秋田県由利本荘市では、定格出力8,0009,500kWの風車7090基を洋上14km沖合に設置する大規模な洋上風力発電も計画されていますが、風車が大型化するほど、また設置基数が増えるほど、低周波音の影響は強くなります。しかし、日本には低周波音による健康被害を防ぐための規制がありません。また、可聴音の周波数分析には、3分の1オクターブバンド分析法が用いられていますが、周波数成分をより詳細に分析できる高速フーリエ変換分析法や12分の1オクターブバンド分析法を用いるよう求める報告もあります15。大規模風力発電施設やエコキュートが増加するなかで、健康被害を防ぐためにどのような対策や規制をお考えでしょうか?

 

 

参考文献

1)加藤やすこ、オーレ・ヨハンソン「電磁波過敏症発症者の現状 症状、電磁波発生源、経済的・社会的問題と予防原則」臨床環境(201221123-130

2)北條祥子「新たな環境リスク要因としての電磁場」臨床環境医学(2016)Vol.25no.2:94-112

3)     Parliamentary assembly. Resolution 1815 ”The potential dangers of electromagnetic fields and their effect on the environment”(2011)

4)The National Institute of Building Science.Indoor Environmental Quality(2005)

5)Consensus paper of the Austrian Medical Association’s EMF working Group” Guideline of Austria Medical Association for the diagnosis and treatment of EMF-related health problems and illness (EMF syndrome) 

6)Igor Beryaev et al, “EUROPAEM  EMF Guideline 2016 for the prevention, diagnosis and treatment of EMF-related health problems and illness”, Rev Environ Health (2016);31(3):363-397

7)Official journal of the European Union, Commission Regulation 2017/1410 

8)GHSとは(環境省ホームページ)

9)城内博”Issues on the GHS Implementation in Japan”(経済産業省ホームページ)

10)    加藤やすこ著『シックスクール問題と対策』緑風出版(2018

11)     The Brussels Times,”Radiation concerns halt Brussels 5G development, for now”01 April 2019

12)     Telecompaper”Canton of Geneva prohibits construction of 5G antennae”11 April 2019

13)     石竹達也.平成27年度環境研究総合推進費終了成果報告書(5-1307)

14)     松井利仁.「低周波音による健康影響と個人差―前庭による知覚と上半器官裂隙症候群」日本の科学者.5211):4-92017

15)     山田大邦.「石狩既設風車の低周波・超低周波音測定と健康被害」日本の科学者.5212):45502017

       

 

-------------------------各党からの回答全文----------------------------------------------------------------

自由民主党

 1)香料による健康被害を防ぐには、日本でも健康影響を調査し、その結果を公表するほか、有害な物質を規制する必要があるのではないでしょうか。香料規制に関する貴党の方針をお聞かせください。

(回答)

御指摘のように香料に含まれる化学物質について、いくつかの国、団体が懸念を示していることは承知しております。香料に含まれる化学物質については、ヒトの健康に有害な影響があるとの科学的な知見が得られれば、必要な規制等を検討してまいります。

 

2)国連勧告の本来の趣旨に基づけば、日本の消費者にも全物質の情報を開示するようにするべきではないでしょうか。GHS表示と化学物質の情報公開に関する貴党のお考えをお聞かせください。

(回答)

GHS表示による消費者向けの情報提供については、事業者が危険有害性を分類するためのガイダンスの作成等を通じて、GHS表示に係る事業者の取組を支援しており、引き続き、こうした取組を進めてまいります。

 

3)文科省はどんな障害があっても共に学ぶ「インクルーシブ教育」を目指していますが、これを実現するためにも、電磁波や化学物質の削減が必要です。学校環境における環境因子の削減対策や、環境改善に関するお考えをお聞かせください。

(回答)

化学物質過敏症の子供のために通常の教科書より化学物質の影響の少ない「対応本」を配布していますが、さらなる対策の実施を目指します。また、電磁波過敏症の子供が学校に通えるよう、エビデンスに基づき学校環境の改善に努めてまいります。

 

4)第5世代移動通信システム(5G)では、今まで使われてこなかった非常に高い周波数帯の電波(28ギガヘルツ)が使われますが、このままでは電磁波過敏症患者は道を歩くことも難しくなります。5G導入に関して貴党の見解をお聞かせください。

(回答)

世界保健機関は、電磁波過敏症と電磁界ばく露を結び付ける科学的根拠はないとの見解です。基地局設置では、科学的知見に基づき国際的基準値に準拠した300GHzまでの安全基準が定められており、その基準値内であれば人体への影響はないとの認識です。

 

5)    風力発電施設やエコキュートの増加により、低周波音の健康被害も増えています。大規模風力発電施設やエコキュートが増加するなかで、健康被害を防ぐためにどのような対策や規制をお考えでしょうか?

(回答)

風力発電施設の風車騒音の人への健康影響については、国内外の研究を整理した結果として、「風車騒音は、わずらわしさに伴う睡眠影響を生じる可能性はあるものの、人の健康に直接的に影響を及ぼす可能性は低いと考えられる」との有識者検討会報告が平成2811月にまとめられていますが、引き続き風力発電施設の超大型化等による騒音等の影響について、知見の集積を図る必要があります。また家庭用ヒートポンプ式給湯機の低周波音の人体への影響については、引き続き低周波音の人への影響などにつきまして最新の科学的知見の収集に努めてまいります。

 

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立憲民主党

貴重なご意見をありがとうございました。貴ネットワークのお考え等を踏まえ、今後、取り組みを進めていきたいと思います。

 

3.環境過敏症の子どもの教育を受ける権利を保障するために、学校環境における環境因子の削減対策や環境改善について配慮すべきと考えます。

5.風力発電のゾーニングの実施、エコキュートの性能評価(低周波)の実施について検討します。

(編注:質問1,2,4については回答がありませんでした)

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共産党

1、香害規制について

 香り付き柔軟剤の普及などにより、強い香りに苦しむ人が出て、香害が指摘されるようになっています。香り成分に関する対応は、基本的に業界の自主的取り組みに任されています。香害を訴えられる方々は、メーカーに香料の成分を表示するよう求めていますが、メーカーは検討するとしたまま、いまだに実現されていません。国は香害について、まだ関係がはっきりしていないとしています。

 国は、健康への影響について、メーカーに責任をもって調査させるとともに、国としても独自に調査研究をすすめる必要があります。規制については、業界任せにするのでなく、国自身が行うべきであり、香害の成分表示については直ちに実施すべきです。

 

2、化学物質の情報公開について

 日本の消費者にも、化学物質の有害性を認識できるよう、商品のラベル・包装に化学物質の情報を開示すべきです。

近年、企業の開発競争の中で、より多くの化学物質が製造されるようになり、化学物質の審査が追いつかない状況になっています。こうしたなかで、国は逆に「規制緩和」だとして、一定量以下の化学物質なら、検査なしですませようとしています。

化学物質の人間への深刻な影響が指摘されるなかで、検査をメーカー・国にきちんと行わせ、その結果を公開させる必要があります。

 

3、教育現場の香害・電磁波の問題について

 近年、香害が指摘され、学校に通えない児童・生徒もいます。こうした中、配慮や対策を求める自治体も出てきています。しかし、国は、因果関係が明らかではないからとして、具体的対策をとろうとしません。実態を調査し、必要に応じた対策を教育現場で行うよう進める必要があると考えます。

 文科省は教育のITC化の方針のもとで、児童・生徒が一人一台タブレットを使う条件整備で、超高速インターネットと無線LANの導入を進めています。しかしアメリカでは、不使用時には教室のアクセスポイントの電源を切っておくこと、無線LANではなく有線LANにすること、アクセスポイントをできるだけ子どもたちから離れた場所に設置することを勧告する報告書にもとづいて対応している州もあります。IT技術開発で先端を行くイスラエルでさえ、学校内の無線LANの使用を制限するガイドラインを持っています。

総務省が安全だと言っているからという姿勢ではなく、すでに欧米各国でとっている学校での電磁波対策によく学んで、規制ルールをつくることが必要です。電磁波過敏症の子どもや電磁波を避けたい子どものために、有線LANの教室や、“無電磁波”教室を備えることも必要です。障害があってもともに学ぶ「インクルーシブル教育」を文科省が追求するには、子どもたちの健康に悪影響を与える要因を学校全体から除去・抑制していくことが不可欠です。

 

4、5G導入に関する党の考え方

 メーカー・業界主導で進められ、安倍政権が推進する第五世代情報通信システム(5G)は、IoTや映像の4K8K、AIなどで急増し続ける通信トラフィックへの対応として、一般には理解されています。

実際には通信スピードの高速化とデータ移動の大容量化のために、より高い周波数帯を用いることになり、小型基地局(マイクロセル)を高密度で設置する必要があるのは、ご指摘の通りです。それによって電磁界の強度が上昇し、電磁波の被ばく量が増加することに、注意を払う議論はほとんどなされていません。

新たな技術の発展とはいえ、膨大なエネルギーの使用と電磁波を大量に発するシステムである以上、健康・環境に対する負の側面を、計画時からきちんと評価し、必要な対応策がとれるのか、中止も含めて選択肢を検討すべきです。

5Gに関しては、各国の取り組みなども参考にしながら、慎重な対応を求めていきたいと思います。

 

5、大規模風力発電について

 再生可能エネルギーの普及は必要です。しかし、大規模風力発電については、地域住民から土砂災害や低周波音被害、環境破壊などを懸念する声が上がり、国会でも十分な規制がないことを追及してきました。環境アセスの対象となってはいますが、住民の疑念に応えるものとはなっていません。

 再生可能エネルギーであっても、健康被害、自然破壊や災害などを引きおこさないよう適切な規制を当然すべきです。また、住民を無視して開発が行われないよう、住民合意を義務付ける制度を導入すべきです。

 環境省は2017年に「風力発電施設から発生する騒音に関する指針」を作成しましたが、1基あたり出力2000kWの風車を想定した調査をもとにしており、最近では14000kW以上の出力の風力発電計画が増えているもとで、「指針」の見直しが必要です。とくに集中立地にともなう累積的影響を検討すべきです。

 地域での乱開発を防ぐ手法として、環境保全を優先するエリア、風力発電の導入促進が可能なエリアに区分けするゾーニングの導入も有効であり、環境省はマニュアルを作成していますが、国として住民の健康・安全や環境保全を脅かす恐れがある地域への立地を規制することが必要です。

 

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社民党

設問1について

化学物質には未解明な部分も多く残り、人の健康にも直結するため国が主導して健康影響調査を進め、予防原則に基づいて総量規制や積極的な情報公開、ライフサイクル管理など総合的な化学物質対策が必要と考えます。

 

設問2について

化学物質の有害性に関する日本の商品表示は極めて不十分です。全ての化学物質を表示対象とすることはもちろん、わずかでも有害への懸念があれば直ちに詳細を全面公開し、規制を躊躇すべきではありません。

 

設問3,4,5について

学校での無線LAN、風力発電やエコキュートも日本社会で急速に普及が進み、5Gを巡っても導入が具体化すれば一気に普及する可能性があります。一方でそれらが発する電磁波や低周波音が人間の健康や生活環境に与える影響の分析・解明は、十分に進んでいるとは言い難い状況です。予断を持たず、その影響について様々な立場の専門家の見解も十分に踏まえて早急に検討を重ね、デメリットが明らかになれば予防原則に基づき先んじて踏み込んだ対策を行うべきです。

 

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れいわ新選組

まず、今回のご質問のそれぞれのご懸念に対して、政策立案できていないことをお詫び申し上げます。

世界的な調査などをもとに、人体への影響がありえるものは、「予防原則」に則る、という方向性を目指す所存です。今後、ご指導たまわれましたら幸いです。

 

 

 

各党の回答概要

政党

対策

化学物質

電磁波

低周波音

自民

香料:科学的知見が得られれば対策を検討

GHS:ガイダンスを通じて事業者の取り組みを支援しており、引き続き推進する。

学校:化学物質の少ない教科書を配布している。電磁波過敏症の子どもが通学できるよう、エビデンスに基づき学校環境を改善。

5G:基準値内であれば人体への影響はない

引き続き科学的知見の収集に努める

立憲

 

学校環境因子の削減や環境改善について配慮

風力発電のゾーニング、エコキュートの性能評価を検討

共産

香料:業界任せにせず、国自身の調査・規制が必要。直ちに成分表示すべき。

GHS:商品のラベル・包装に化学物質の情報開示をすべき

健康・環境に対する負の側面を、計画時からきちんと評価し、必要な対応策がとれるのか、中止も含めて選択肢を検討すべき

(低周波音に関する)指針の見直しが必要。集中立地による累積影響を検討すべき。住民合意の義務付け、住民の健康・安全、環境保全を脅かす怖れのある地域への立地を規制。

社民

香料:国が主導して健康影響調査をする。予防原則に基づく総量規制や情報公開も必要。

GHS:日本の商品表示は極めて不十分。全物質を表示対象にするべき。

電磁波や低周波音による健康・環境影響の解明は不十分。早急に検討を重ね、デメリットが明らかになれば予防原則に基づいて踏み込んだ対策を行うべき。

れいわ

世界的な調査などをもとに、予防原則に則った方向性を目指す。