電磁波・化学物質過敏症対策
電磁波過敏症(EHS)は、国内有病率が3.0〜5.7%と推計され、発症者の80%は化学物質過敏症(MCS)も併発していると考えられています。オーストリア医師会や、ヨーロッパ環境医学アカデミーは、独自の診断・治療ガイドラインを発表し、具体的な検査項目も示しています。拙書「新 電磁波・化学物質過敏症対策」(緑風出版)では、自分自身で経験し、効果があった対策や治療法をまとめているので、よろしければご一読ください。
1.電磁波に反応しているのかどうか確かめる
体調不良の原因には、さまざまなものが考えられます。化学物質や食物、精神的ストレスの影響かもしれません。電磁波過敏症かもしれないと思ったら、電磁波に反応しているかどうか調べてみましょう。自分にわからないように、家族にブレーカーを落としてもらったり、携帯電話の電源を入れたりしてもらい、電源をON、OFFした瞬間に、体調に変化がおきるかどうかを確認しましょう。また、オーストリア医師会は、電磁波の影響を受けているかどうか調べる患者問診票を開発しました。この問診票で、自分の状態をチェックし症状と電磁波被曝の関連性を確認してください。オーストリア医師会ガイドラインの全文(問診票を含む)は、「研究・各国動向」からダウンロードできます。
2.できるだけ被曝を避ける
症状を軽くするには、まず電磁波を避けることです。オーストリア医師会や、ヨーロッパ環境医学アカデミーも、電磁波を避けるよう勧め、具体的な方法をアドバイスしています(詳しくは、「新 電磁波・化学物質過敏症対策」をご参照ください)。高圧送電線などから発生する低周波電磁波は波長が長く、屋内への侵入を防ぐのは困難ですが、携帯電話や広域Wi-Fiで使う無線周波数電磁波は波長が短く、金属などで簡単に遮蔽できます。例えば、防虫用の網戸のネットを金属製のネット(アルミやステンレス)に換えるだけでも、窓の半分を効果的に遮蔽できます。
携帯電話基地局や広域Wi-Fiの電磁波が室内に侵入しないように、窓に電磁波を遮蔽するシールドカーテンをかけたり、壁や天井にシールドペンキを塗って遮蔽するなど、電磁波対策の技術はすでに確立しており、世界中で利用されています。シールド素材の購入や、具体的な施工については、住環境測定協会にご相談ください。
第5世代移動通信(5G)では、今までよりも高い周波数帯と新しい通信方式を使って超高速・大容量の通信を行います。そのため、被曝量が100倍になるとも指摘されています。5Gの電波を防ぐには、シールドペンキを二層塗り、三層塗りにしたり、シールドカーテンを二重にするなどの方法があります。シールドカーテンの中には、5Gに対応していないものもあるので、商品を選ぶ際は、どの周波数帯の電磁波を削減できるか、確認してください。5G電磁波の対策については「5Gクライシス」で詳しく説明しています。
なお、政府のGIGAスクール構想では、学校への無線LAN導入とパソコンによる授業を推進していますが、無線LANのリスクを避けるため、学校には有線LANを導入したり、無線 LANの使用時間を制限している国や自治体もあります。詳しくは「シックスクール問題と対策」を参照してください。
3.抗酸化物質を摂取する
電磁波被曝によって活性酸素が増え、DNAの損傷や神経系へのダメージ、ホルモン分泌の異常、アポトーシス(細胞の自然死)など、さまざまな影響が発生しています。活性酸素を除去する抗酸化物質(ビタミンやミネラルなど)を摂取することで、症状が改善すると考えられています。ビタミンやミネラルは、野菜や海藻などに豊富に含まれているので、和食を中心にした食生活にするとよいでしょう。症状が重い場合や、大量に被曝して調子が悪い時などは、サプリメントで補いましょう。電磁波過敏症の人は、とくに亜鉛とビタミンDが不足しているという報告があります。サプリメントを摂取する時は、食品から抽出された、添加物の少ないものを選んでください。
4.体から有害重金属を取り除く
重金属やダイオキシンなどの有害化学物質が体内にあると、フリーラジカルが発生しやすくなります。日本人はヒ素と水銀の蓄積量が高いそうです。ヒ素は農薬や殺虫剤などに含まれ、疲労や胃腸障害の原因になります。水銀は汚染された魚介類に含まれ、うつ状態やしびれを引き起こします。毛髪分析検査をすれば、体内に蓄積した有害重金属や、必須ミネラルの過不足を調べることができます。検査データをもとに、必須ミネラルの不足分を食事やサプリメントで補いましょう。
5.体から帯電した電気を取り除く
被曝して症状が出た時、風呂に塩を入れて入浴してみましょう(足湯でもOK)。こうすることで水が電解液になり、体に帯電した電気が逃げやすくなります。過敏症の方なら手や足の指先から、電気的な刺激が体の外へ出ていくのがわかるはずです。この入浴法で、頭痛や目の奥の痛みが楽になったという声もあります。素足で地面に立つだけでも、帯電した電気を地中に逃すことができます。アーシングマットをシーツの下に敷いて寝たり、パソコンを使う時に足元に敷いている人もいます。
6.金属を身につけない
金属は、電磁波を集めるアンテナのように作用します。眼鏡の金属製のフレームやワイヤー入りのブラジャーなど、細長い金属を身につけないようにしましょう。歯の詰め物や差し歯の土台を、金属からレジンに変えて、症状が軽減した例もあります。歯科治療で体調が改善した例や、過敏症配慮した歯科治療の例を、「電磁波過敏症を治すには」で紹介しています。
7.運動やサウナで汗をかく
有害化学物質は脂肪に蓄積しているので、運動やサウナで脂肪を燃焼させ、化学物質を排出するようにしましょう。
8.食品添加物や農薬をとらない
加工食品には、防腐剤や防カビ材、着色料、香料などさまざまな食品添加物が含まれています。残留農薬など、これら有害な化学物質をできるだけ摂取しないようにしましょう。また、できるだけ良質な水を飲むようにも心がけましょう。
9.精神的ストレスを減らす
精神的ストレスも活性酸素を増やす原因ですし、消化器系に負担をかけ、ひいては体全体のバランスを崩すことにつながります。病気になると不安になりますが、自分の自然治癒力を信じて、あまり悩まないように心がけましょう。とくに過敏症は、普通の人が反応しないものに反応したり、理解してくれるお医者さんも少ないので、余計に不安感が強くなりがちです。
平常心を保つには、ゆっくりと深く呼吸をするのも役にたちます。ゆっくりと深く呼吸をしながら、自分の体や心の状態に目を向けるのもよいでしょう。瞑想をすることで、精神的に落ち込まなくなった発症者もいます。体の声に耳を傾けることで、今まで無理をしていた部分や負担がかかっていたことに気づくことができます。それが、「治る道」への第一歩かもしれません。
また、ネガティブな感情やそれに伴う身体的苦痛を解放するために、エモーショナル・フリーダム・テクニック(感情開放テクニック、FETと略されることが多い)を利用している発症者もいます。解消したい感情や苦痛を言葉にしながら、顔のツボを軽くタップして刺激します。いろいろ試して、自分にあった方法を見つけてください。
10.代替医療も試してみる
個人差はありますが、ホメオパシーやフラワーエッセンス、鍼、お灸、カイロプラクティックなどで症状が軽減したという人もいます。ホメオパシーやフラワーエッセンスには、電磁波による症状を改善するために作られたレメディもあります。自然治癒力を高めるので、風邪を引きにくくなるなど電磁波過敏症や化学物質過敏症の症状だけでなく、体質が全体的に改善すると考えられています。化学物質過敏症になると、病気になっても薬を使えませんが、ホメオパシーやフラワーエッセンスには様々な症状に対応するレメディがあるので、何種類か手元においておくと便利です。ホメオパシー治療を受けてから、化学物質や電磁波に曝されても反応しにくくなったり、症状が早く消えるようになった、などの声があります。お灸は、自分でも簡単にできるので、外出して体調が悪化した際に、利用している発症者もいます。また、気功やスピリチュアル・ヒーリングで改善したという方もいます。ただし、気功士やヒーラーの中には、怪しげな人もいるので要注意です。料金が異常に高い、自分の治療の効果を強調し他の医療を否定する、治療について十分に説明してくれない、などの治療家は避けたほうがいいでしょう。自分にあう方法を探してください。代替医療や食事、サプリメントなどは、「新 電磁波・化学物質過敏症対策」で詳しく紹介しています。
日本でも電磁波過敏症の研究が
2005年、厚生労働省の助成を受けて化学物質過敏症の病態や診断、治療に関する研究が行われました(『微量化学物質によるシックハウス症候群の病態解明、診断、治療対策に関する研究』)。この中では、電磁波過敏症の問題も扱われ、北里研究所病院臨床環境医学センターを受診した患者7人の症例や海外の研究について触れています。
この報告書で紹介された症例を見ると、症状が現われる原因になる電磁波発生源は、パソコン、携帯電話機や基地局、地上デジタル放送、家電製品とさまざまですが、一度電磁波に敏感になると、反応する対象が増えていくことが伺えます。また、電磁波過敏症と診断された患者7名のうち2名は化学物質過敏症も併発していました。
患者は、電磁波をできるだけ避けるよう指示されています。また、電磁波被曝によって酸化ストレスが高まり、カルシウムの代謝異常が起きるとも言われているので、患者は電磁波発生源から離れること、ビタミンC、カロチノイド、フラボノイド、亜鉛、セレンなどの抗酸化物質を摂ること、カルシウムやマグネシウムなどを摂取することなども勧められています。
報告書では、「今回紹介した例は北里研究所病院臨床環境医学センターを受診したほんの一部の患者にすぎない」「携帯電話を人口の約半数以上が所持する時代になりつつある日本で電磁波の障害はないと言い切るデータは我々医学者および工学者は持っていない。今後謙虚にこれらの問題を直視し、病態解明、診断、治療に立ち向かう必要がある」と述べられています。
「昔から、診断が困難な病気は、すべて精神病という大箱に放り込まれてきた。患者達は、研究が発展するまでの間は、誤診と自分の健康管理のために戦ってきた既往を持つ。最初このような憂き目を味わった疾病には、多発性硬化症、慢性疲労症候群、繊維筋痛症、多種類化学物質過敏症、光過敏症、聴覚過敏症などがある。もちろん、適切な研究や診断、治療の発展を阻害する業界からの経済的圧迫もある」と述べ、WHOの事務局長だったブルントラント博士も電磁波過敏症を発症し、引退したことを紹介しています。
同報告書の『電磁波と生体:文献的考察』の「治療など」という項目から、治療に関する記述を下記に紹介します。「代替医療治療者は電磁波過敏症に気づいていることが多く、助けになることも多いかもしれない。鍼、気功、指圧治療などエネルギーの感覚的転移を利用している。しかし、患者にとって適切でないこともある」そうです。
また、「ベジタリアン食がある程度の健康回復に役立つ場合がある」とあります。「マクロビオティック食は体をアルカリ性にし、肉や砂糖は一般に酸性にする。ある種の食物を除去すると、電磁波症状が改善することがある。例を挙げると、ミルクやグルテンなどでる。唐辛子、カラシ、胡椒のような香辛料は、炎症状態に戻るために、避けることが望ましいかもしれない。農薬のない有機栽培食物も購入できればさらに望ましいかもしれない」。
化学物質や電磁波、精神的ストレスが、その人の許容量を超えて溢れ出すと、症状が現われるという考え方があります。これは、雨の中におかれた雨樽に例えられます。樽が身体で、雨が環境汚染物質や精神的、生物学的ストレスです。「樽の中の水」を調べるために、「既往歴、家族歴、最近の医学的治療状況、作業内容などからの環境暴露歴、最近の環境分析、そして食事や食物を確認することも必要となる」。
適切な治療によって樽の中の雨水が減って、ある程度空になると、暴露に耐えやすくなり、「解毒、食事変換、病状の治療、環境汚染の排除などにより、以前には耐えられなかったような暴露に耐える力が増すこと」を期待するそうです。
環境医学ではサウナを解毒法として利用し、代替医療では酵素(プロテアーゼ、リパーゼなど)やハーブ療法を取り入れているそうです。ただし、「酵素は一般にカビから作られるために、多種化学物質過敏症やカビに反応する人には不適当」だといいます。
「スウェーデンのヨハンソン博士は、βカロチン/ビタミンAが電磁波過敏症の日光過敏性症状に有効である」と述べており、「βカロチンは日光過敏性の治療薬として記載されてい」ます。ちなみに、βカロチンは、パセリやにんじんに多く含まれています。
また「メラトニンは電磁波過敏症の一部で有効と言われ報告されているが、電磁波過敏症患者に広く用いられて効果があるかどうかは不明だ」「メラトニン投与は電磁波過敏症の痛みにある程度有効性が示されている。ここに述べた方法は一人の人に良い物が、他の人には害になる可能性もある」。
電磁波過敏症の治療方法はまだ確立していませんが、食生活の改善や、サウナで汗をながすことなどは、自分でも試すことができます。できる範囲で、自分の体調を見ながら、少しずつ試していってはどうでしょう。なお、メラトニンのサプリメントを長期間服用するのは問題があると考えている医師もいます。
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